好きだよ、嫌いだよ、何でもないよ
溜息 立位置 タイニーデイズ
「お早う、×××。今日はすっごい寒いね」
僕は彼女にそんな他愛の無いメールを送った。
当然、返事は返ってこない。
それはそうだ、僕たち喧嘩してるんだし。
いや、喧嘩と言えるほど大したものなんかじゃない。
もっと些細で、もっと性質の悪い何かだ。
………そうだな、ドラマみたいに綺麗な言葉で着飾るなら、謂わば[すれ違い]、というやつだ。
この前、仲直りしたばかりだったんだ。
それなのに、彼女はメールをしてても詰まらなそうで、でもどちらからも終わらせる事は出来なくて。
ぐだぐだメールを続けて、最後にはまたすれ違いで、口喧嘩を始めていた。
ほんとに、些細な事さ。
それなのに僕の言葉の一つ一つが、彼女を苛立たせる。
彼女の言葉の一片一片が、僕を焦燥へと駆り立てる。
そして取り繕おうとすればするほど、さらに彼女を傷付ける。
そんなこんなで、僕たちは現在進行形で絶賛すれ違い中だ。
どうしてだろう、どうしてだろう。
どうしてこうも、上手くいかない。
何故こうも、穏やかに立ち行かない。
全てが裏目に出る、逆さに映る。
この前、僕は彼女に「好きかどうかわからなくなった」と言われた。
その後、「いつ別れるかわからないじゃない」と言われた。
「今も好きだと自信持って言えない」とも言われた。
………OKOK、いいだろう。
別にそう思っていたならしょうがないさ。
でも、それなら何故君は僕に別れると言ってくれないのか。
一言でいい。
「別れよ」って言ってくれれば、楽になれるのに。
その時は苦しくて、苦しくて、胸が潰えそうになったとしても、何時かはその苦しみも消えてくれるだろうに。
どうして君は、こんな中途半端な形でこの関係を保とうとするのか。
僕が君に別れ話を持ち出して、そんなに別れたいなら別れればいいと言うたびに、君は話しを逸らす。
「わからない」と言って、君はいつも答えから逃げる。
僕の事が好きじゃないのなら、何故君は別れようとしないんだ。
この中途半端な関係が、一番辛い。
僕は君が好きだ。
本当に、心の底から愛してる。
だから君に「好きじゃない」と言われる度に胸が裂けそうになる。
なのに君は別れてくれない。
だから僕はいつまでもこの痛みを抱えていなくてはいけない。
理解不能だ。
君は何を考えている。
君は何を想っている。
君は一体、如何したいのだ――――――
ガシャンッ
不意に、机に載っていたグラスが落ちて割れた。
僕は溜息をつきながら、その破片を片付けようと立ち上がる。
「いたっ」
破片を拾おうとすると、指が切れた。
血が傷口からぷっくりと滲む。
割れたグラスに滴り落ちる血。
僕はその破片に目をやった。
――――――僕たちも、こんな風に、終わってしまうのだろうか
なんの前触れもなく、突然に、或いは必然に、僕たちの関係は終りを迎えてしまうのだろうか?
ガラスの破片に映った僕の顔。
見飽きていた筈のその顔は、今まで見たことの無い顔をしている。
まるで僕を哀れむ様なその目は、僕を無性に苛立たせた。
「………そんな目でみるなよ」
僕はその顔を叩き割る。
でも破片はさらに細かく砕けるだけで、其処には何人もの僕がいた。
その度に、僕はその[自分]を思い切り殴りつける。
殴る。
殴る。
殴る。
気がつけば、僕の手は血塗れで。
「………ょう、畜生、畜生………」
手の痛みも心の痛みもごちゃまぜになって。
僕はそのまま無様に泣いた。
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