空は皮肉な程に快晴で。

木々からは柔い光が洩れている。

そんな風景を見ながら、黒は一人、部屋にいた。

手に握られているのは一挺の回転式拳銃。

その銃身は鈍く光を放ち、銃身長はやたらに長い。

そしてその芸術性に富んだ拳銃の弾倉にはただ一発のみ、弾が篭められていた。

たった一発だけ残されたその銃弾は、一体何の為に残されたものなのか。

「………」

黒はソレをしばし見つめ、不意に撃鉄に指をかける。

そして黒は指に力を篭めた。

ぐぐぐ

まるで度胸試しかのように、黒はその指に力を入れていく。

………あと少しだ。

あと少し。

あと少しで――――――全てが終わる。

この撃鉄を起こして、引き金を引いてしまえば、全て決着がつく。

「………っ」

だが指はそれ以上動いてくれない。

罪も悪も知りながら、それでも黒は撃鉄を起こせない。

ごとん

閉じられた手からは力が抜け、握られていた拳銃が床に落ちた。

床に落ちる音に紛れて、黒は一人呟く。

「………畜、生………」

なんて………、なんて醜い

あれだけ人を殺しておいて、オレは見苦しくこの生に執着するというのか。

ありもしない資格にしがみ付いて、オレは一体何をしているんだ。

自分勝手にも程がある。

身の程知らずにも程がある。

お前にはもう選ぶ権利すら無い。


お前はいるだけで害悪なんだよ、兎尽月黒


………ぎちっ


身体が、痛む。


痛覚の無いオレにとって、それは心の痛み。

心の痛みは、心の質量。

その罪の意識が、オレを締め付ける。

術者が死んでも尚、オレの感情に反応する鎖はまるでひっくり返した砂時計。

死にたいのに、死にたくない。

死ななくてはいけないのに、死んではいけない。

そのジレンマに磨耗していくオレのココロの残量を示した、砂時計。

なら。

ならば。

これは、いつかは消える一瞬の泡沫。

オレはその一瞬さえ、自由に出来ないらしい。

「ただいまー」

葵が帰ってくる。

黒は葵に見られないように手に持った拳銃を机の引き出しに仕舞い、葵を出迎える為に立ち上がった。



「おかえり、葵」















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