S2-96
それはオレの番号
それはオレの序列
それはオレの持戒
S2シリーズの、最終鬼
それこそがオレ
それこそがクロ
だがその事実を知るモノは、もう殆んどいない。
大概は、既に死に絶えた。
《球体思考》の白色によって。
白色の彼によって、その全ては焼け爛れた。
全ては塵芥に帰した。
そのはずだった。
なのに。
それなのに、如何して。
どう、して――――――?
「――――――お前は………、何者だ」
「ふふ………」
「おい、答えろよ」
「………くふふ………、あはは、あはははははは!!」
「………何が可笑しい?」
「ふふ………、いやいや?今まで神なんて信じてこなかったけど、今回ばかりは神様に感謝しなくちゃな、って思っただけよ。何の悪戯かは知らないけど、こうして貴方にめぐり合えたんだものね」
「………?」
「………間抜けな顔。まるで何もわかっていないようね、貴方。いいわ、教えてあげる。私は復讐者、灰原仄香。貴方を――――――殺す者よ。96号」
ぎちり、と。
少し、黒の身体が軋んだ。
「………っ。………お前は、オレの事を何処まで知っている」
「ふふ、何でも知ってるわよ?貴方のシリアルナンバーはS2-96、通称《イヴ》の第二世代における最終鬼。主にヨーロッパ殲滅戦線に投入。絶大な活躍を示す………」
「――――――」
「その中でも跳び抜けて戦争終結に貢献したのがS2シリーズの最終にして至高の製品。つまり、貴方」
「――――――っ」
ぎちっ
「戦争で活躍、ねぇ………。ふふ………、ほんと、都合のいい言葉。戦争で活躍っていうのは、結局どれだけ人を殺したかって事に換言出来てしまうのにねぇ。ふふふ………」
「………や、やめろ」
「ふふふ、貴方もそう思わない?」
「やめろ………、言うな………!!やめてくれ!!」
「貴方も――――――人を殺した」
ぎちっ
ぎちぎち
ぎちぎちぎち
「人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺した人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺して人を殺した」
「あ、あぁあ………」
「そして」
「そして――――――私の娘を、殺した」
「あぁ、あぁああああ!!」
――――――がちり
歯車が。
歯車が、止まる。
「さて………、自分の現状をよく理解してもらったところで――――――飛鳥を殺した罪、此処で償ってもらおう」
「あ………、あぁ………」
気がつけば。
黒の身体は既に自由を奪われ、一切の動きを封じられていた。
鎖があるわけでも、錠で拘束されたわけでもない。
だが確かに、黒は瞬き一つ出来ず、その身体は何かに拘束されている。
仄香が黒に近づく。
視界の隅でそれを見届けながら、黒は不意に思った。
オレは、此処で死んだ方がいいのかも、しれないな
「小夜なら、96号。貴方は此処で――――――朽ちなさい」
灰原仄香。
そう名乗る彼女は懐からバタフライナイフを取り出し、ソレを――――――
「調子に乗るな、若人が。貴様に自分の死に場所を決める権利など、有りはしない」
ソレは――――――綺麗な放物線を描いて弾き飛ばされた。
其処には。
「っな………!!?」
其処には。
「………あ、蒼色」
背負った十字架を想起させる赤色の外套を風に膨らませ、立つモノがいた。
《蒼の戦慄》
《鎮魂歌》
ソレは、青色をした凶器にして凶気。
その名は――――――ポン。
史上最強の、人形。
◆
「くく………、どうやらようやく、舞台が整ったようだな」
彼女は嘲りを含んだ声でそう嘯き、貌を醜く歪めた。
其処は白の空間。
澄んだ白に、爛れた赤色。
かけ離れたその二つは果たしてしかし、不釣合いな程その場に相応しく、似合っている。
「今宵をもって世界はその歯車を回転させ、舞台は確実に終焉へ向けて進行し始める。もう停められはしまいよ、誰にもね。そう――――――それは兎尽月君、キミにさえね」
彼女はくつくつ、と嗤う。
その悲劇全て、まるでそれすら彼女にとっては快楽の糧でしかないかのように。
だが、それも当然といえば当然。
当たり前といえば、当たり前。
悲劇とは――――――そもそも人間の身勝手な娯楽の為に生み出されたものなのだから。
「さて。この回避不可能の惨劇の上で、精々踠き続けるがいい、兎尽月黒。
踠いて、足掻いて――――――そして朽ちていけ 」
Back
Next
Return