――――――君は、不幸を招く

誰かの言葉。
あの保健室で、宣告された詞。
その言葉は何の根拠も無く、酷く理不尽な言葉だが、何故か否定することが出来なかった。
――――――こういう、ことだったのだろうか………
澪は自分の部屋で布団に包まる。それはまるで彼女の唯一の鎧かのように。
それが心を守る、最期の防衛ラインかのように。

目の前で見た、その光景。

目の前で見た、その後景。

――――――わたしがいたから、あんなことになったのか?

――――――わたしがいたから、あの愛らしい少女は死んでしまったのか?

――――――わたしがいたから、あの母親にあんな不幸が訪れたのか――――――?


ワタシガイタカラ、ヒトガ死ンダ


「………」
頭が混乱して、うまく働かない。

………喩えば。
喩えば。

不幸を撒き散らすだけの少女。

もし本当にソレがいたとしたら、それは一体どんな存在なのだろうか。


意識セズニヒトガ死ヌ


生きてることすら罪過で、それを悔やむことすら偽善で。
何もしていないのに既に体は罪垢で汚れていて、全ては――――――全てはそれでも自分に起因していて。
「ぅっ………」
認めたくない認めたくない認めたくない認めたくない認めたくないみとめたくない認めたくない認めたくない!
――――――だが、なら何故わたしの目の前でばかり不幸が起きる?
教室のときだってそうだった。
突如蛍光灯が落ちてきて、かぼちゃがいなければ、きっと大怪我を負っていたことだろう。当然それはわたしだけではなく、都や、樹輔すらも。
「っ………」
そんなのは―――いやだ。
そんなのはあってはいけないことだ。
なのに。


ワタシノ認識外デヒトニ影響ガ及ブ


決して認めたくない、そんなのは忘れてしまいたい。
そんなのは――――――記憶から抹消してしまいたい。
悲しすぎる。
辛すぎる。
彼女には――――――重過ぎる。

カタカタ、と澪は震える。
それは恐怖に、己に、震慄する。

「忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ忘れろ………!!」

それはわたしの所為ではない、それはあくまでただの事故であり事象でしかない、そんなのは確率論だ、蓋然率の問題だ、たまたま不幸が二回連続で続いてしまっただけなんだ、わたしは悪くない、わたしは悪くない、わたしは悪くない、わたしはそんなの、憶えに無い―――
そんな事象、忘れてしまえ―――!!






その時、
――――――プルルルルッ
まるで図ったかのように、あまりに都合よく、澪の携帯が鳴った。
澪がサブ画面を覗き込むと、そこにはサカキエキスケと表示されていた。













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