新陳代謝には必ず排泄物が伴うものだ。
何故ならそれは新陳代謝という言葉そのものが最早それを意味する単語だから。


排泄物。

廃棄物。

破棄物。


古いものから新しいものへと入れ代わる。

古いものが新しいものに棄てられる。


それは生物に限ったものではなく、街や都市、はたまた国でさえ起こりえる生理現象。

喩えばこの街。

喩えばこの場所。


世間から棄てられ、世間から忘れ去られた、憐れな街。

高度経済成長に取り残された、旧世代。

車道のあちこちが罅割れ、其処に存在する建物は全てが全て、破損し、機能していない。


家という家、店という店、ビルというビルが静かに、寂しげに佇んでいる。

黙り込んだ世界。

全てが灰色で、全てが停まっている、世界。

そんな停まった世界の奥にある、一際大きい廃ビルの屋上に、その二人はいた。

「ん〜………、やっぱり僕はあんまりこういう所好きになれないなぁ………」
「ふふ………、何を女々しい事を言っているんだ。迷路君だって立派な男だろう?」
「む」
男の声が一度くぐもる。
どうやら答えに窮しているらしい。
「それを言われると立場がないなぁ………。でもどうしても僕、幽霊とかソレ系は苦手なんだよね………」
「まったく迷路君は苦手なモノが多すぎるよ。この前は血が駄目って言ってなかったっけ?」
「いやぁ………、面目ない」
男は頭をかきながら、真実恥ずかしそうに顔を伏せる。
その仕草は実に愛嬌のあるものだった。
「いや、でもさ。あの子、どうなるのかな」
男はこれ以上女にからかわれない様、話題を換える。
いや、話題を元の路線に戻したと云った方が語感は正しい。
それに対して女はゆっくりと口を開く。
「………どうだろう。今回ばかりはおれにも解らないよ。鴉は《こっち側》は苦手らしいから、いくらアイツでもちゃんと掬い上げられるかどうか………」

「そうか………。ちゃんと彼女が正しい方向を選ぶことが出来ればいいんだけど」
「………いや、待ってくれ迷路君。彼女の今の現状は、彼女のあの選択は、確かに馬鹿馬鹿しいし安直だけど、決して間違ってはいないよ」
「………間違っていない?」

「あの子はあの子なりに考え抜いてこの手段を選んだ。それを頭ごなしに否定は出来ないし、それに――――――ともすればあの子にはこれこそが一番の最良の選択かもしれないのだからね」
「………?」
「………迷路君。この世界には――――――生まれるべきではない人間だって、いるんだよ?」
「………っ、朔夜、それは………」

それは――――――それは言っちゃいけない。

この世界に、生まれてはいけない人間なんて、何処にもいない。

「――――――まぁ、いずれはわかることだ。おれたちはそれまで高みの見物でも決め込んでおこうよ」

それきり女は黙り込んで、ただ静かにソラを見上げていた。

瞳に写るのは、幾千の星。

そこにどれだけの想いが籠められているのか。

人々が星に願いをかけるのは、こんな心境に由来するのかもしれない。












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